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レス数が950を超えています。1000を超えると表示できなくなるよ。
■★■ 萌えた体験談コピペ祭りPart30 ■★■
1 :
部屋にいない
:05/03/20 21:12:47 ID:fmrbm1EY0
前スレ
http://sakura01.bbspink.com/test/read.cgi/hneta/1104821454/
以前のスレ
http://sakura01.bbspink.com/test/read.cgi/hneta/1091365131/
Part1
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1009/10091/1009199705.html
Part2
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1011/10115/1011525133.html
Part3
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1017/10174/1017480691.html
Part4
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1022/10229/1022940156.html
Part5
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1026/10267/1026791217.html
Part6
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1030/10300/1030088570.html
Part7
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1030/10309/1030965249.html
part8
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1033/10335/1033569985.html
part9
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1036/10367/1036706732.html
part10
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1039/10399/1039963773.html
2 :
えっちな21禁さん
:05/03/20 21:13:35 ID:YU84z2MM0
\∧_ヘ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
,,、,、,,, / \〇ノゝ∩ < 1000取り合戦、いくぞゴルァ!! ,,、,、,,,
/三√ ゚Д゚) / \____________ ,,、,、,,,
/三/| ゚U゚|\ ,,、,、,,, ,,、,、,,,
,,、,、,,, U (:::::::::::) ,,、,、,,, \オ――――――――― ッ!!/
//三/|三|\ ∧_∧∧_∧ ∧_∧∧_∧∧_∧∧_∧
∪ ∪ ( ) ( ) ( ) )
,,、,、,,, ,,、,、,,, ∧_∧∧_∧∧_∧ ∧_∧∧_∧∧_∧∧_∧
,,、,、,,, ( ) ( ) ( ) ( )
3 :
えっちな21禁さん
:05/03/20 21:14:23 ID:AYVptfEg0
>>1
貼りながらスレ立て乙です
4 :
部屋にいない
:05/03/20 21:15:08 ID:fmrbm1EY0
part11
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1043/10430/1043034046.html
part12
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1045/10452/1045224070.html
part13
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1047/10472/1047204320.html
Part14
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1049/10499/1049954764.html
Part15
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1054/10543/1054383495.html
Part16
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1057/10578/1057851890.html
Part17
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1061/10613/1061350144.html
Part18
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1065/10657/1065711913.html
part19
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1068/10681/1068193700.html
part20
http://wow.bbspink.com/hneta/kako/1071/10712/1071216647.html
5 :
えっちな21禁さん
:05/03/20 21:16:11 ID:YU84z2MM0
\∧_ヘ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
,,、,、,,, / \〇ノゝ∩ <
>>10
取り合戦、いくぞゴルァ!! ,,、,、,,,
/三√ ゚Д゚) / \____________ ,,、,、,,,
/三/| ゚U゚|\ ,,、,、,,, ,,、,、,,,
,,、,、,,, U (:::::::::::) ,,、,、,,, \オ――――――――― ッ!!/
//三/|三|\ ∧_∧∧_∧ ∧_∧∧_∧∧_∧∧_∧
∪ ∪ ( ) ( ) ( ) )
,,、,、,,, ,,、,、,,, ∧_∧∧_∧∧_∧ ∧_∧∧_∧∧_∧∧_∧
,,、,、,,, ( ) ( ) ( ) ( )
6 :
部屋にいない
:05/03/20 21:17:23 ID:fmrbm1EY0
part21
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/hneta/1074998873/
part22
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/hneta/1079003586/
part23
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/hneta/1084534160/
part24
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/hneta/1089725551/
part25
http://sakura01.bbspink.com/test/read.cgi/hneta/1091365131/
part26
http://sakura01.bbspink.com/test/read.cgi/hneta/1094318881/
part27
http://sakura01.bbspink.com/test/read.cgi/hneta/1097668479/
part28
http://sakura01.bbspink.com/test/read.cgi/hneta/1102468794/
7 :
部屋にいない
:05/03/20 21:18:51 ID:fmrbm1EY0
萌えた体験談コピペ保管庫
http://moemoe.homeip.net/
萌えた体験談のコピペ祭り@ぬける2ちゃんねる
http://n2ch.lazy8.info/moe/
萌えちゃんねる
http://moech.net/frame.html
8 :
部屋にいない
:05/03/20 21:21:54 ID:fmrbm1EY0
前スレが容量越えしちゃったので
そこへ口を開いたのはエミだった。言われたユキの表情は呆気に取られていたというか、意外だという表情をしていた。
俺とハルナもそうだったかもしれない。エミがユキに意見するのは、おそらくこれが初めてだったのだ。
「そう、ね。そうよね」
とりあえずユキはそのことには納得したようだったが、俺とエミを交互に見て再び頭を抱える。
エミは何事もなかったようにカレーを食べ始めた。
俺とハルナは顔を見合わせ、そんなエミをしばらくまじまじと見つめていた。
以上、元スレ
うおー妹に萌え〜〜! Part.33
http://sakura01.bbspink.com/test/read.cgi/hneta/1090072619/
9 :
部屋にいない
:05/03/20 21:25:43 ID:fmrbm1EY0
23 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/04 20:11:21 ID:E4z0/8yU0(14)
昼食を終え、後片付けをしようとエミと台所へ向かうところでユキに呼び止められた。
洗い物なら任せてというエミの言葉に甘えることにして、ユキに言われるままリビングのテーブルにつく。
さっきまで座って昼食を取っていた場所だ。席に着くなりユキはため息をついた。
「あの子があんなこと言うなんてねえ」
どうやら第二回姉妹会議(エミ除く)の勃発らしい。
「私も驚いた。ああいうこと言う子じゃないのにね」
隣でハルナも同意する。どうもさっきの「智也君の言うことなんだから」という発言を指しているらしかった。
「でも別に悪いことじゃないんだし」
フォローというより弁解をする気分で言った。
俺を巡っての発言だったのでなんだか指を差されてお前が悪いと言われている気がしたのだ。
「そうですけど、そうなんですけどねえ」
再びため息。
10 :
部屋にいない
:05/03/20 21:29:19 ID:fmrbm1EY0
24 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/04 20:13:07 ID:E4z0/8yU0(14)
「お姉ちゃんはさ、エミの母親みたいなもんだから。きっと今子離れを味わってんのよ」
ハルナの言葉に皮肉めいたものは無い。素直に思ったことを口にしただけのようだ。
確か俺も似たようなことを言った気がする。やはり妹から見てもエミへの接し方は姉というより母だったのか。
ユキはその言葉に違うわよと言いはしたが後は何も言わなかった。
「エミって人に頼る癖があるけど、これはいい傾向でしょ」
それからハルナはにやっと俺を見て
「アレね、愛の力ね」
と言った。
「お前それ恥ずかしいぞ」
「私は真剣だってば」
11 :
部屋にいない
:05/03/20 21:30:08 ID:fmrbm1EY0
その目は笑っているように見えたのだが。
しかしそう言えるハルナを見て少しだけ安心する。この前の吹っ切れたという宣言は本当らしい。
「どんな時でもくっついてくるエミに、私もちょっと調子に乗ってたかもなあ」
ぼやきのようなユキの発言にニワトリとひよこを想像した。大体二人の関係はそんな感じだろう。
最初は早足の母親に慌てて付いていくかもしれないが、それも徐々に無くなる。ひよこだっていつかはニワトリになるのだ。
12 :
部屋にいない
:05/03/20 21:30:43 ID:fmrbm1EY0
26 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/04 20:16:46 ID:E4z0/8yU0(14)
「まあ「お母さん」が終わりでも「お姉ちゃん」が残ってるわけだしさ、がっかりすることもないよ」
「だからお母さんじゃないですってば。でも、そうですね。お姉ちゃんですもんね」
「そうそう。私のお姉ちゃん、ってことも忘れないでよね。エミにばっかり目を向けられたら私は寂しくて死んでしまうよ」
うさぎなのよ、とふざけるハルナだが、半分本心だったと思う。
それをユキも読み取ったのか、優しい目になって「ごめんねえ」と改まった。
「え?い、いや、違っ、違うよ。そういう意味で言ったんじゃないって。そんなこと言われても困るってば。ほら智也君も」
姉の予想外の行動に「何か言ってよ」と俺へすがるような目をする。だがそこは踏み込む部分ではないだろう。
「エミの所に戻ってやらないとな」
「うあ、ちょっと待て!待ってよ!」
ハルナの言葉を背で受け、とっととその場を後にした。
13 :
部屋にいない
:05/03/20 21:31:12 ID:fmrbm1EY0
27 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/04 20:24:56 ID:E4z0/8yU0(14)
台所では水道から出るシャワーのざーという音が響いていた。洗い物もそんなに減っていない。
リビングにいた時間は大してなかったようだった。
「あ、早かったですね」
「すぐ済んだからね」
「何か話してたんですか」
本当のことを言うわけにもいかず、ちょっと悩んでから
「ほら、明後日はみんな帰るだろ。その辺の話をさ」
と言ったが、明るい話題になるわけもなく言ってからしまったと思う。
「……やっぱり私のお母さんの実家に行くのかな」
「北海道だっけ」
こくりと頷くだけ。
「どんな所なの?」
14 :
部屋にいない
:05/03/20 21:33:12 ID:fmrbm1EY0
28 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/04 20:25:45 ID:E4z0/8yU0(14)
「私が生まれたのは東京で、北海道に行ったのは再婚する前に行ったきりで記憶も曖昧なんですけど
いいところですよ。夏に行ったんですけど湿度がないからからっとしてるんです。おばあちゃんも優しいし」
「いいところなんだ」
よかったじゃないか、とすんでのところで言うのを止めた。正しい表現か分からなかった。
三姉妹はようやく地に足が着いた、落ちついてきたという感じだった。
それなのにもう一度別の土地へ行くというのだから、エミの実家とはいえ行き慣れているわけでもないだろう。
また不安になるかもしれない。
「北海道はいいところですよ。でもなんだか疲れちゃった。もうちょっとここでだらだらしていたいです」
微笑んではいるのだけど、どこか寂しそうだった。そんな様子が見ていられずわざと明るい口調で聞いた。
「俺飛行機乗ったことないんだよ。エミちゃんはあるんだろ?どんな感じ?」
15 :
部屋にいない
:05/03/20 21:34:14 ID:fmrbm1EY0
29 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/04 20:27:08 ID:E4z0/8yU0(14)
「え?ええと、そうだなあ。……当然ですけどすごい高いところ飛ぶわけじゃないですか。
あれって離陸した直後はどんどん地面との距離が遠のいていって、高いところに登っていく実感があるんです」
でも、とエミは何か思い出したのかにわかに表情が明るくなる。
「上がっていって、また上がっていくともう違うんです。下に広がってるのは地面じゃないんです。
模型みたいな感じで、下に人が住んでるなんて思えない。雲も綿みたいで掴めそうで、すごく不思議な気分になるんですよ」
「へえ、そりゃ俺も見てみたいな」
「でも見れるのは窓際の席だけですから、私は譲りません」
意地悪っぽく言って、笑った。俺もつられて笑う。
「私飛行機が好きだったんですよ、そういえば。でもすっかり忘れてたなあ」
16 :
部屋にいない
:05/03/20 21:35:26 ID:fmrbm1EY0
32 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/04 23:42:51 ID:E4z0/8yU0(14)
「スチュワーデスに憧れてたとか?」
「機長になりたいと思ってたんです、女の子なのに。変な子だったんです」
「別にいいじゃん。なんかかっこいいよ」
「そう、ですかね」
「そうだよ」
そこで話は切れ、ざーという水の音が続く。作業をしながらの会話だと突然無言になる時間がままある。
「智也さんって夢あります?」
「俺?」
少しだけ迷う。とうに捨てていたものだった。
17 :
部屋にいない
:05/03/20 21:36:20 ID:fmrbm1EY0
「……作家になりたかった時期はあったけどね」
「すごいですね」
「いや、もう諦めたよ。だからすごくはないな。今は、分からないや」
諦めた?と首を傾げるエミ。高校二年の時点で「夢を諦める」ということが理解できなかったのだろう。
「色々ね。別に人に文章を貶されたわけじゃないし、自分の才能に見切りをつけたわけでもないし」
聞いたってつまんないよ、と加えて洗い物に専念する。
18 :
部屋にいない
:05/03/20 21:37:31 ID:fmrbm1EY0
33 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/04 23:44:31 ID:E4z0/8yU0(14)
「でも私聞きたいです」
「ま、その内な」
明後日にはこの家を去るエミにこの言葉は優しいものではない。
分かってはいたのだが話をする気になれなかった。自分にとって嫌な記憶なのだ。それをわざわざ晒す気になれない。
それきり会話は途切れ、あとは水道の音がずっと続いた。
自室に戻って勉強でもしようかと昨日と同じように考えているだけ考えてみる。
机に座って学生鞄の中を開けると例の封筒が目に入った。中身を取り出す。あいかわらずエグイやらグロイやら。
ゴジラはともかくヘドラじゃなあ、とチケットに対して今日二度目のため息をついた。
誘う相手もいないし、かといって一人だと二回観るのが限界だろうし。
一瞬ぽっと先輩が浮かんだが、興味あるわけないだろうと振り切る。
かといって使わないのも勿体無かった。売るのも友人に悪いし。
見つめているうちに段々呪いの札にすら見えはじめてきた頃、ノックも無しにドア開いた。エミだろう。
19 :
部屋にいない
:05/03/20 21:38:16 ID:fmrbm1EY0
34 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/04 23:46:15 ID:E4z0/8yU0(14)
「ちょっと聞きたい事あるんだけど智也君エミに??ん?」
俺も相当彼女たちに馴染んできてるなと苦笑しながら
「何かあったのか?」
と聞いた。しかし
「……なんかすごいの持ってきたねまた」
ハルナの意識は机の上に並べられた四枚の呪符に向けられている。
「まさかこれに誘ってくれるんじゃないでしょうね」
「最初はそのつもりだったんだけど、予想外に大変なものが届いたからな。本当はもっと誘いやすいものにしたかったんだけど」
そこで昨日のエロ本の騒ぎで俺が全く弁解をしていなかったのに気がついた。
三姉妹を家に置いて下世話な本を取りに行ったと勘違いされたままではたまらない。
今更感もあるが、ここで本当のことを話すことにした。
「映画のチケットを昨日本屋の友人に頼んだんだ。で、その時にエの付く本を押しつけられてさ。だから勘違いするなよな」
20 :
部屋にいない
:05/03/20 21:39:43 ID:fmrbm1EY0
35 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/04 23:47:03 ID:E4z0/8yU0(14)
「別に男の人がそんな本の二冊三冊。……あれ、私何しにきたんだっけ」
「エミがどうとか」
「そうだった。ねえ、智也君エミに何かした?泣いてたよ」
え!?と柄にもなくでかい声で反応してしまった。
「泣いてたのか?」
「うん。何か心当たり無い?」
「いや、特に……」
まさか、と頭の中の自分がぎくりとした。さっきの突き放すような言葉が不味かったのだろうか。
「もしかしたら、あるかも」
混乱してしどろもどろになる。それを聞いたハルナは何故か驚いた様子で
「え?あるの?」
と妙なリアクションを取った。
21 :
部屋にいない
:05/03/20 21:40:14 ID:fmrbm1EY0
36 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/04 23:48:29 ID:E4z0/8yU0(14)
「は?」
「いや、ちょっとカマかけてみただけっていうか」
お前な、と一言いってやろうとしたが「でも心当たりあるっていうのは、どうなのよ」という強気な言葉にかき消されてしまった。
「……実際に泣いてたのか?」
「ううん。でもなんかしょんぼりしてた感じがしたからね。洗い物のすぐ後だったから、まさかと思ったわけ」
結局俺の心当たりは外れてはいないらしかった。
「そっか」
正直その程度のことは予想していた。だが実際に聞いてしまうとどうにも弱ってしまう。
徐々に元気になっていく姿が我が身のように嬉しかったのだ。
改めて自分のしたことに反省するが、かといって夢を捨てた理由を話すことには直結しない。
一人うんうん唸っているとハルナが得意気に口を開いた。
「だから、ってわけじゃないけどね。私にいい考えがあるのよ」
22 :
部屋にいない
:05/03/20 21:40:58 ID:fmrbm1EY0
62 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/06 22:43:53 ID:y0OZ1YME0(15)
「いい考え?」
「実は明日エミの誕生日を祝うつもりなの」
「今知ったな。俺にも教えてほしかった」
「決まったのはついさっきだもん。智也君が洗い物に行ったあと、お姉ちゃんと」
「おいおい、いくらなんでもさっき過ぎないか」
誕生日を祝うのならもっと前もって決めるものだろう。
「本当は祝う気はなかったもん」
「冷たいな」
「そうじゃなくて、明日は誕生日じゃないの」
矛盾した回答に頭をひねらせていると、ハルナは思い出したように
「本当の誕生日は二週間後なの」
と付け加えた。
23 :
部屋にいない
:05/03/20 21:41:34 ID:fmrbm1EY0
63 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/06 22:45:45 ID:y0OZ1YME0(15)
「ずいぶん気が早いな」
「ほら、この家にいられるのも明日が最後でしょ?」
それが何か関係あるのか、という顔をしているとハルナは落胆と驚きの混じった変なため息をした。
「智也君がいる内にって考えたのよ」
「俺?」
「そ。エミは智也君のこと好きみたいだし、私達にしても家族みたいなものだからね」
家族。その言葉を聞いて変な感慨が沸いてきた。嬉しいような焦れったいような、むずがゆい喜びだった。
褒められてるけど手を挙げて自慢できない心境というか、そういう不思議な感情。
「そういうことなら、分かったよ」
うむと楽しそうに頷くハルナ。
「でね、手伝ってほしいことがあるの。明日の午後、お姉ちゃんと二人で買い出しに行くからエミに気付かれないようにして」
「気付かれないようにって、言うほど簡単じゃないだろ」
仮に俺の部屋に閉じ込めたとしても広い家ではないのだ。物音で分かってしまいそうだが。
「だからエミを外に連れ出してほしいのよ」
24 :
部屋にいない
:05/03/20 21:42:38 ID:fmrbm1EY0
64 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/06 22:48:02 ID:y0OZ1YME0(15)
「なるほど。何時くらいに帰ればいい」
「六時くらいかな。帰ってきたらそのまま夕飯だから、外食とかはしないでね」
それから、と胸ポケットをまさぐり始める。
「ぶらぶらするだけじゃエミも可哀相だし、これでどうにかして。まさかゴジラ見せるわけにもいかないしね」
はい、と一万円札を渡される。
「こんな金どこから」
失礼な話だが、彼女の境遇から考えてそんなに持ち金は無いと考えていた。
境遇抜きにしても中学二年生が簡単に出せる金額ではない。
「食費。あんなに貰ったんだから余るだろうってお姉ちゃんが。
ついでに何かプレゼントも買ってあげてね。私達は別に用意するから」
25 :
部屋にいない
:05/03/20 21:43:49 ID:fmrbm1EY0
65 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/06 22:50:55 ID:y0OZ1YME0(15)
余った食費でみんなで遊びにいこうとユキに提案したとき、ちょっと迷ってから彼女はかぶりを振った。
本当は行きたかったのかもしれない。でもそれを上回ってエミを祝いたいと言うのなら俺は喜んで従おうと思った。
その考えには男女など無く、ただ家族だからという意識のみが働いていた。
「よし、じゃあケーキとかよろしくな」
「そっちは気付かれないようにね」
二人で親指を立てて小さく笑いあった。
26 :
部屋にいない
:05/03/20 21:45:17 ID:fmrbm1EY0
よろしくねとハルナが部屋を出ていった後、俺はベッドに仰向けになってどうしたものかと腕を組んだ。
学校が終わって家に戻るのは1時頃になる。エミを連れ出す時間が二時だとしても六時までは四時間ある。
映画を観ても確実に時間が残るだろう。どこか時間を潰せる場所はないだろうかと頭の中の地図を行ったり来たりするが、
都内から離れた県下の地方店というと主婦御用達の実用的な所ばかりで楽しめるところは無い。
公園も考えるが時期的に少々寒いし一時間もいられはしないだろう。
困ったな、と一人悩んでいてふと昼間の先輩の言葉がフラッシュバックする。
27 :
部屋にいない
:05/03/20 21:46:07 ID:fmrbm1EY0
67 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/06 22:56:10 ID:y0OZ1YME0(15)
ついさっきの話であるが、これはちょうどいいと思い電話しようと身を起こした。
子機を持ってきて先輩の電話番号をプッシュする。仕事で何度もしていたので電話番号は覚えていた。
だがプライベートでの電話は初めてだ。なんだかやってはいけないことをするようで、
変な例えだが初めてピンクダイヤルに繋げる時の直前の気分と似た心境でベッドに座してコール音を聞く。
「はいもしもし」
出た声は先輩のものだった。
「あ、斉藤です」
「はあい。どうしたの、何かあった?」
話をすると、ああそっち、と納得した。どうやら仕事の話だと思ったらしかった。
「デートね羨ましい」
「デート?」
だってそうじゃない、と言われながらそういえばそうだと今更思う。
外に出て時間をかけて連れ回す、という意識の方が強かった。
28 :
部屋にいない
:05/03/20 21:46:50 ID:fmrbm1EY0
68 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/06 22:57:51 ID:y0OZ1YME0(15)
「エミちゃんて中学生だっけ?ぎりぎりオッケーじゃない」
「何がですか。……いや、いいです聞きません」
電話口から豪快な笑い声がした。相変わらずビジュアルと似付かない。
「映画観るって言ったわね。っていうと△△市?」
「いえ、地元ですよ」
「ええ?だってデートするならにぎやかな場所の方がいいでしょう?」
「デートっていうより、何ですかね、妹とぶらつくってイメージなんです。あんまり力入れてどこに行こうって気はしなくて」
「なによ、じゃあもう決まってるじゃない」
つまらなそうな声に対して俺は疑問符を浮かべるだけだった。
「ぶらつくんでしょ。それがそのまんま答えなんじゃないの?」
「あ……」
「傍から言わせると無計画ってことかもしれないけど、それだけ気を許せる関係なんじゃない。
楽しく過ごそうとか気張らずに、一緒に歩いてるだけで退屈しないような関係は、ちょっと羨ましいわ」
29 :
部屋にいない
:05/03/20 21:47:22 ID:fmrbm1EY0
69 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/06 23:00:04 ID:y0OZ1YME0(15)
そういう考え方もあるのかと感心したが、下手をしたらエミをぞんざいに扱うことになりはしないだろうかとも思う。
「でも考えも無しに出て、立ち往生なんてことになったら情けないですよ」
「あら、斉藤君ってもしかして女性経験ない?」
「ありますよ」
「じゃあ失敗したのね。早かったでしょ、終わるの」
人が気にしていることを躊躇無く言って捨ててみせるのも先輩の魅力だ。と思ってはいたが、さすがにこれは痛手だった。
「本当にいい関係っていうのは無計画でも何とかなるもんよ」
何事もなかったように当たり前に続ける先輩に、この人を乗りこなせる人っていないだろうなあと馳せる。
大味とも言うべき性格だった。
「でも上手く行くか分からないじゃないですか」
「まあね。でも斉藤君としてはお店で楽しむよりエミちゃんと楽しみたいわけでしょ?場所探すだけ無駄って気がしたのよ」
30 :
部屋にいない
:05/03/20 21:47:59 ID:fmrbm1EY0
70 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/06 23:02:43 ID:y0OZ1YME0(15)
「ああ」
ようやく自分の中に至った気がした。どこかの店に行って、というのはエミを楽しませられなかった時の逃げ道だったのだ。
しかし俺が望んでいることは違う。そんな余計な考えは必要ないことだった。単に自信と信頼の問題なのだ。
「なんとなくですけど、分かりました。地元でふらつくって意識が最初にあるんだから、変にセッティングするだけ野暮ですね」
「そうそう。結局また私の助けはなかったわね」
先輩の威厳はいつになったら、という嘆きが聴こえてくる。そんなことないですと言おうとしたがやめた。
そういう距離感で満足だった。
31 :
部屋にいない
:05/03/20 21:48:36 ID:fmrbm1EY0
71 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/06 23:04:17 ID:y0OZ1YME0(15)
「ていうか自慢された気さえするわ。あー、私もデートしたいっ」
「誘えばいいじゃないですか。待ってたって誰も来ませんよ」
整って綺麗すぎる感もある人だったので、初見の人には近寄りがたい雰囲気はあった。
人気こそあれ、表立った告白というものはあまり経験していないのだという。
「いたらこんなこと言わないわよ。誰か素敵な人はいないのかしら」
「俺でよければ老後は面倒見ますよ」
下らない話がしばらく続いて、最後にお礼を言って電話を切った。
何だかんだ言って頼りになる人だった。
32 :
部屋にいない
:05/03/20 21:49:58 ID:fmrbm1EY0
108 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/07 23:15:21 ID:5dk3d87Z0(9)
机に向かってさて勉強だと構え、結局読みかけの小説に手を伸ばす。
読み終わってしまうと本格的に暇になってきた。勉強をやろうかなという気さえ沸かなかった。
違う本でも読もうかと考える。そういえば昨日、本屋にエロ本もらったっけと思い当たった。
家にいるのは自分だけではない、迂闊なことは出来ないのだ。と自分を戒めるも
一度沸き出た性欲は抑えられない。結局隠し場所である机の引き出しから例の紙袋を取り出した。
聞き耳を立てて近寄ってくる気配を探す。下の部屋からテレビの音が聴こえるだけだった。
やや興奮気味だったせいか、これは今しか!と変に高いテンションで机の上に本を出す。
33 :
部屋にいない
:05/03/20 21:51:35 ID:fmrbm1EY0
手にしたのはハルナが昨日読んでいたものだった。最初のページこそまだ綺麗な裸で済んでいるが、
後半に進むにしたがってアダルティックな写真が増えていく。それこそ白濁液だったり噴水だったり色々だ。
ハルナがここまで読んでなくて安心する一方で、読んでたらどんな顔したのか興味も沸く。
とんとんとん、と階段を上る音が聴こえてきた。
本に集中していたために、下の部屋から出てくる音を聞き逃してしまっていた。
34 :
部屋にいない
:05/03/20 21:52:56 ID:fmrbm1EY0
110 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/07 23:20:23 ID:5dk3d87Z0(9)
しまったぁ!と慌てて左右を見回した。
元あった場所に戻そうとすると引き出しの奥の、そのノートの下に入れなければならない。
手間がかかるので隠すところを見られてしまうだろう。さらに雑誌サイズ三冊である。容易に隠せるところは無い。
落ちついていれば機転も効いたのだろうが近づく足音に頭の中は混乱の極みとなる。
とにかく「見られてはいけない」という考えのみが残り、結果雑誌の上に自分が被さるという、
さながら勉強に疲れて寝てしまったようなポーズを取ることにした。
今にして思えば綱の上としか思えない。なにせ少しでも動けば写真なり卑猥な言葉なりが見えてしまうのだから。
こんこん、とノックされて心臓が高鳴る。この時点でハルナではないのが確定した。見つかった場合、笑えない。
「CD取りにきたんですけど」
35 :
部屋にいない
:05/03/20 21:54:15 ID:fmrbm1EY0
エミの声だった。最悪のパターンだ。
思うにこの時「ちょっと待って」とか言えばよかったわけだが、既に寝たふりを始めている俺には考えつかないことだった。
人間、極限状態になると攻めを忘れて守りに入るものだ。
36 :
部屋にいない
:05/03/20 21:55:59 ID:fmrbm1EY0
113 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/07 23:28:52 ID:5dk3d87Z0(9)
「あの、智也さん?」
もう一度ノックの音。それからややあって、ぎいとドアの開く音。
「あ……」
俺の姿に気づいたらしい声を上げる。俺はさも寝ているかのように深い呼吸で身体を膨らますことを必死にやっていた。
しばらく静かになった。部屋に入ろうか迷っていたのだろう。
鼓動の高鳴りに乗って深呼吸が早くならないよう気を付けながら、胸の下のエロ本が見えてないことを祈るだけだった。
エミの移動する気配がした。後ろを歩いている。
それからCDコンポの開閉音がし、ケースにしまうプラスティック独特のかちゃ、という音がする。
だがそこからエミは動かない。ぼふ、とベッドに重いものが落ちる音が、いや座ったらしい。
37 :
部屋にいない
:05/03/20 21:57:37 ID:fmrbm1EY0
エミはベッドに腰を下ろし、俺の背中をじっと見ているといったところか。
気付かれた?と思ったがそれでも寝たふりを止めるわけにもいかずひたすら深呼吸。どんなに待っても動く気配は無かった。
閉じ続けたまぶたの筋肉に違和感を感じたころで、階段を駆け上がる音とドアの開く音がした。ノックは無い。
「うわ、なんだこの部屋!」
ハルナの素っ頓狂な声がした。
38 :
部屋にいない
:05/03/20 21:59:47 ID:fmrbm1EY0
114 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/07 23:31:22 ID:5dk3d87Z0(9)
うるさいなあと俺は思わず身じろぎしてしまう。しかしエミに動きはない。心配になって起き上がる。
見るとエミはベッドの上で横になっていた。気持ち良さそうに身体を曲げ、吐息に合わせてゆるやかに肩を上下させている。
「寝てたのか……」
ほっと一息。
「そっちもでしょ。昼間っから二人そろって寝てるもんだからびっくりしちゃったよ」
「まあ、そうか」
説明するのは面倒だったのでやめた。机に広がった本をそそくさと片づける。ハルナがにやにやした視線を投げかけてきた。
「すけべ」
ハルナの言葉は無視し、エミが寝てる間に机の本棚に背表紙が向かないように入れる。
最初からこうすればよかったんじゃないか、と考えても後の祭だ。
「枕の下に夢で見たいものをいれるって話は聞くけど、枕にする人は初めて見た。どうだった?見れた?」
「お前も試してみりゃいい。で、何か用か」
「用?別に。エミがいないからここにいるんじゃないかと思って」
39 :
部屋にいない
:05/03/20 22:01:13 ID:fmrbm1EY0
116 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/07 23:41:20 ID:5dk3d87Z0(9)
「それだけか?」
「だって暇なんだもん。外出だってそんなにするわけにいかないし。
変でしょ?ここの家の子じゃない女の子が出たり入ったりしてたら」
事ある毎に三姉妹の誰かが俺の部屋に入ってきていたのはそういうことだったのかと知る。
ゲーム機も部屋主がテスト勉強していることになっているので使えない。そうなるとやることも無いだろう。
「そういや初日はぷよぷよやってたなお前」
「おばさんがいいって言ってくれたからね」
「やるか?」
いいの?と目が輝いたが、
「でも勉強の邪魔しちゃ悪いし」
と自制するように首を振った。
40 :
部屋にいない
:05/03/20 22:01:52 ID:fmrbm1EY0
117 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/07 23:44:27 ID:5dk3d87Z0(9)
「いいよ。どうせエの付く本広げる余裕があるんだから」
「そういえばエミに見せたわけ?」
「違うよ。見せまいとして、まああんな格好してたわけだ」
「馬鹿だなあ」
笑って「じゃ、ちょっとだけやろうかな」と頷いた。
「将棋の時のようにはいかないぞ、俺は」
しばらく並んで遊んでいるとユキが部屋に入ってきた。またこの子は勉強の邪魔をして、と言い出しそうだったので
「いや、明日は教科少ないから。佐藤さんもどう?」
とコントローラーを差し出す。最初は渋っていたが、一回だけだからと誘うと、後は部屋から出なかった。
ハルナとユキの姉妹対決をベッドに座って眺める。はっきりと分かれる腕前ではないので白熱した。
騒がしくなってきたせいか、目を覚ましたエミが上半身を起こした。二秒ほど俺の顔を眺めてから
「ご、ごめんなさい」
と謝った。
41 :
部屋にいない
:05/03/20 22:03:09 ID:fmrbm1EY0
119 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/07 23:47:25 ID:5dk3d87Z0(9)
「勝手に寝ちゃって」
「あーいいよ。俺も寝てたみたいだし」
あ、起きたわねとハルナが画面から目を離さずに言った。
「エミも参加よ、順位付けるから。次、智也君とね」
「ハルちゃん今何位なの?」
「二位。でもお姉ちゃんに負けたら三位」
「まあ三位確実だろうけどね」
姉がふざけた調子でからかう。負けるかーとハルナは意気込んだが結局言う通りになってしまった。
「今度はエミよ!」
悔しそうに俺とエミにコントローラーを渡す。エミが負ける前提で「智也君の次は私とだからね」と伝えた。
42 :
部屋にいない
:05/03/20 22:04:26 ID:fmrbm1EY0
しかし俺のやり方はひたすらに右隅に積み上げていく方法(邪道ともいう)だったので
偶然を味方に付けないかぎり勝機は無い。運がよければどんぶりー(最上級。だっけ?)にまで発展するが、
酷いときはふぁいやー(二連鎖)すらいかない。
そして運はエミに味方した。派手さは無いが堅実に攻めてくるエミに敗退する結果となった。
最終的にはエミ・ユキ・俺・ハルナという順位で確定する。
43 :
部屋にいない
:05/03/20 22:05:31 ID:fmrbm1EY0
120 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/07 23:51:07 ID:5dk3d87Z0(9)
悔しそうにハルナがユキにリベンジを申し立てた。ユキもやれるものなら、と挑戦に受けて立つ。
「二人とも大人げないよな」
エミに笑いかける。プレイする人間はカーペットに座る形だったので、俺とエミはベッドの上から眺めることとなる。
「そうですよね」
ふふ、と笑うエミにハルナが突っかかった。
「エミは一位だからそんなこと言えんのよ」
それきり画面に釘付けになってしまう。勝者の余裕か、エミは笑って「頑張ってね」と意地悪く言う。
気付くと、俺の部屋で三人は楽しそうに時間を過ごしていた。
部屋に来ることはあったが三人揃うのは初日以来だと思い至る。
なんで今更気付いたんだろうと思ったが、それだけ彼女たちが自然な存在になったのかもしれない。
三人この家にいるのが当たり前。そう思えるようになり始めていた時期だった。
そういう矢先に、彼女たちはこの家からいなくなるのだ。
44 :
部屋にいない
:05/03/20 22:07:41 ID:fmrbm1EY0
140 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/09 20:11:59 ID:q1+ySl0k0(9)
昨日と違い学校に残ることもなかったので一時前には家に着いた。
着替えてからリビングに行くとハルナがスパゲティを用意していた。
「今日も二人で作ったのか?」
「残念、私だけです」
席に着いてと促されそれに従う。ハルナ手製のスパゲティを囲んで
どうでもいいような世間話をしているとテーブルの下でハルナの足が触れた。
何かの拍子に当たってしまったものだと思って無視していたが、次第に蹴り飛ばすといった動きになってくる。
「何だおい」
「智也君は今日どうするの?」
「はあ?」
人を蹴っ飛ばしといてどういう了見だと思ったが、彼女の焦れったそうな目を見て納得した。
今言うのかよ、と思ったがエミの前で「何もない」なんて言えない。
仕方なしに「あ、ソウイヤア」とくさい芝居をすることにした。
45 :
部屋にいない
:05/03/20 22:09:21 ID:fmrbm1EY0
141 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/09 20:14:15 ID:q1+ySl0k0(9)
「ちょっと買い物があるなァ」
「あら大変、一人で大丈夫?」
何が大変なのかと軽くハルナをねめつける。もうちょっとマシな台詞もあるだろうに。
「いや駄目かもしれないな。誰か一緒に来てくれると助かるな」
「じゃあエミ、ついてったりなさい」
強引ともいえる会話の軌道にエミも「え?」と眼を丸くする。隣で姉が心底呆れたような表情で俺とハルナを眺めていた。
「何、突然?」
「べ、別に突然なんかじゃないわよ。洗い物は私とお姉ちゃんでやっておくから、智也君の買い物を手伝ってきなさい」
ほらと小突かれ俺も「頼めるかな」と手を合わせる。
なし崩しに「まあいいですけど」という了承を得ると、ユキがため息をついた。
昼食を終えて部屋にいったん戻る。部屋着から私服に着替えてサイフの中身を確認し
どう時間を潰そうかと頭の中の地図を引っ張りだそうとして、先輩の言葉を思い出してやめる。
地元だし地理的な問題なら何とかなるだろうと家を出た。秋晴れと言うべき静かな空だった。
46 :
えっちな21禁さん
:05/03/20 22:10:56 ID:vOS6eJEZO
支援要る?
47 :
部屋にいない
:05/03/20 22:12:18 ID:fmrbm1EY0
142 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/09 20:15:57 ID:q1+ySl0k0(9)
「いい天気ですね」
「でも女心と秋の空、なんて言葉もあるしね。分からないよ」
なんですかそれと可笑しそうに笑って空を仰いだ。
「私ばっかり悪いなあ」
「悪い?」
「智也さんを独り占めしてるみたいで」
今度は俺がなんだそりゃと言う番だった。
「別に俺みたいなのが横にいたってなあ」
「いえ、嬉しいですよ」
48 :
部屋にいない
:05/03/20 22:13:35 ID:fmrbm1EY0
屈託のない笑顔だった。どういう意味の嬉しいなのか検討がつかなかったが、かといって聞き返す男気も無い。
単純に懐いているだけの発言なのかもしれないが、俺はこの時初めてエミに女を感じていた。
「……変なこと言っちゃいました?」
エミがおずおずと声をかける。気付くと俺は黙り込んでしまっていた。
「いや、俺も嬉しいよ、嬉しい」
気恥ずかしいのを隠しひとしきり頷いて空に目をやる。ことわざが頭に浮かんだ。隣でエミは何を考えているのだろうか。
49 :
部屋にいない
:05/03/20 22:14:12 ID:fmrbm1EY0
143 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/09 20:18:43 ID:q1+ySl0k0(9)
「今日は何を買うんですか?」
「え?ああ」
並んで歩いていると程よい所にエミの頭があった。撫でたくなる位置だ。髪の分け目に何とも言えない可愛らしさを感じる。
「とりあえず、そうだな。駅に行くか。あそこなら色々揃ってるし」
名前は失念したが、駅にくっついている大手の百貨店の名を挙げた。映画館も駅の近くにあるのでちょうどいい。
考えながら、そういえば生徒会室に予算をまとめておくファイルの数が少なかったなと思い出す。
「生徒会のもので足りてないのがあるんだよ」
「へえ、そういうのって智也さんが買うんですか」
「いや、誰でもいいんだけどね。ただ俺の仕事で入り用だから俺が買わないと悪いし」
ただでさえ仕事遅れてるしなあ、と少しへこむ。
先生ならまだ理解があるが三年の副会長(男)が小うるさかった。悪い人では無いのだが。
「責任感があるんですね」
「面倒って気持ちの方が大きいかな。人に頼むのが面倒。領収書を受け取って印を押すのも面倒。
物品の確認をするのがなにより面倒」
50 :
部屋にいない
:05/03/20 22:14:45 ID:fmrbm1EY0
144 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/09 20:23:50 ID:q1+ySl0k0(9)
特に年末には買いだめをして怒濤の数の事務品が届くので
別室と呼ばれる生徒会室の小部屋で一人黙々とやらねばならない。そんなようなことを言って
「気がおかしくなる」
と大げさなため息をついた。
「でも任されてるわけでしょう?お金のことで信頼されてるのってすごいですよ」
現在は会長の魅力で会員も定員の六人だが、それ以前は前会長の見てくれ(睨みが怖ェ)で四人しか集まらなかった。
会長・副会長は予算の担当になってはならず後輩の俺がやらざるを得なかったというのが実情である。
信頼より規則・運営を第一においた結果だったわけだが、わざわざ言う気にはならなかった。
「まあ俺も生徒会の中じゃ古参だからな」
ふふんと偉そうにふんぞり返るが、拍手をするように手を合わせ「すごいです」と言うエミに逆に恥ずかしくなった。
51 :
部屋にいない
:05/03/20 22:15:20 ID:fmrbm1EY0
145 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/09 20:24:46 ID:q1+ySl0k0(9)
「お父さんはお金のことに無頓着だったので、そういう男の人って何か新鮮です」
どっちの、とは聞くまい。
「エミちゃんだって料理は出来ないだろ?男だから、女だから、っていうのは違うよ」
「こ、これから勉強します」
俯いて反省する姿が可笑しくて「頑張れよ」と背中を叩いた。
「……今度、もしまた会えたら、ホットケーキ作りますから」
俯いているためエミから表情は読み取れない。
「その時には美味しいって言ってください」
顔を上げる。優しい表情だったが物憂げだった。
改めて彼女と過ごす時間は少ないのだと知った俺は、「ん」という肯定を表す短い言葉を発した。
52 :
部屋にいない
:05/03/20 22:16:29 ID:fmrbm1EY0
160 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/10 22:42:48 ID:Fc1jra7C0(6)
本当なら買い物の前に映画の話をするべきだったが、結局切り出せないまま百貨店の文具コーナーに入った。
場所は分かっているので真っ直ぐ目的の物が売っている場所に行く。
「20も買えば間に合うだろうけど」
紙製のちゃちなやつなので買ってもかさばって邪魔になることはない。
どうせ来たんだし他にも何か買ってくかなあと辺りを見回す。エミがクリアファイルを楽しげに眺めていた。
「これ可愛い」
手にしているのはミッキーの愛犬、あの黄色いやつがプリントされているやつだった。
「俺はこいつが好きかな」
「ドナルドですか」
「スクルージ小父さんが好きなんだけどね、本当は」
「ああ、あの三兄弟の」
「小さいころ大好きでねえ」
ダックテイルというアヒルを主役に置いたアニメの登場人物で
金持ちなのでコインの山の中で泳げるんじゃ、と華麗な背泳ぎを見せる老アヒルだった。
53 :
部屋にいない
:05/03/20 22:17:29 ID:fmrbm1EY0
161 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/10 22:45:01 ID:Fc1jra7C0(6)
「最近のディズニーでもドナルドとか出てるの?」
「今はアラジンっていうのやってます」
「そういえばCMで見るな」
アラビアンナイトを原作にした、アラジンと魔法のランプの話である。
舞台がアラビアということで登場人物の顔も他ほど濃くは無いディズニー映画だ。
「あれ観たいんですよね」
「女の子ってディズニー好きだねえ」
「だって夢があるじゃないですか」
男の夢といえばドラゴンボールだなあと言いかけて、映画という言葉に今更反応した。きっかけってぼた餅だ。
「よし、じゃあ観に行こう」
「え?」
「アラジン。金のことなら心配すんな」
54 :
部屋にいない
:05/03/20 22:18:06 ID:fmrbm1EY0
162 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/10 22:46:57 ID:Fc1jra7C0(6)
クリアファイルを片手にしばらく呆然とするエミ。
「いっ、いいんですか?」
「何が?」
「だって……迷惑かけちゃ、お世話になってるんだし……」
俺に、というより自身に対して答えているような口調で言った。
「おいおい、俺を家族だと思うならそういう台詞は寂しいな」
「……ごめんなさい」
「ほらまた」
「ご、ごめんなさい」と言って口に手を当てる。
「謝るより笑ってる方が人生楽しいぞ。悲しい時も苦しい時も笑うとさ、空元気も本当の元気になる」
「本当の元気」
おうむ返しをして俺を見る。
「うん。昔仕事で困ってた時「嫌なことでも笑ってればいくらかマシになる」ってね、前の会長に言われた」
55 :
部屋にいない
:05/03/20 22:18:42 ID:fmrbm1EY0
164 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/10 22:51:48 ID:Fc1jra7C0(6)
「でも、笑うのって本当は難しいですよね」
「そうなんだよなあ。俺も「そんなん難しいです」って答えた。
そしたら「そういう気持ちだけでも持ってると変わるもんだ」って言われたな。その後「無知の知だ」とも。
どういう意味かは分からないけど、心に残ったよ」
世間では不良と呼ばれる側の人間だったかもしれないが、そこらの人よりよほどしっかりしていたと思う。
外見はともかく会長職をこなす力量をもった人なのだ。しかし校長は暴力という面だけで前会長を評価し、辞めさせた。
世話になったことを思い出して軽い感傷に浸っていると、エミが耐えきれなさそうに吹き出した。
「え、なに」
「無知の知、っの意味って」
「「知らないということに気付くという進歩」みたいな意味だよね」
「そうです、けどその人は」笑って「「無知に知を授けた」ってニュアンスで使ってる気がするんです」と続けた。
56 :
部屋にいない
:05/03/20 22:19:36 ID:fmrbm1EY0
165 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/10 22:56:14 ID:Fc1jra7C0(6)
聞いて、感じていた違和感ががちりとはまった気がした。
心に残る名言だと思っていたのに、実は馬鹿にされていたらしい。
官僚だと豪語している父親が昼間の公園で鳩にエサをあげているのを目撃したような心境でしばらく突っ立っていた。
「笑っちゃいけないとは思うんですけど」
「あーいや、謝んなくていいや」
事実が何であれ、それでも心に深く刻まれた言葉である事と、目の前でエミが笑ってくれている事には変わりない。
大事なのは現実を笑い飛ばしても否定しないこと。そう言っていたのだ。
「でもいい言葉だと思います」
「俺もそう思う」
収まったらしい笑いを落ちつけるようにふう、と息をついて
57 :
部屋にいない
:05/03/20 22:20:13 ID:fmrbm1EY0
「やっぱり観せてほしいです、映画」
言ってからためらい無く俺の手を握った。
その柔らかい感触にどきっとしたが、多分俺の考えてるようなことは彼女の中に無いだろうなと思う。
ぐい、と引っ張って一歩踏み出すエミ。しかしその場に止まって
「ファイル買ってきていいかな?」と俺が訊ねると手を離してしまった。
惜しいことをしたなと思いながら必要量の事務用ファイルをカウンターに持っていった。
58 :
部屋にいない
:05/03/20 22:21:31 ID:fmrbm1EY0
179 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/12 17:19:04 ID:vY0VXudc0(6)
映画館への道すがら、エミが俺の片手にぶら下がった買い物袋を見て
「少ないんですね」
と呟いた。
「い、いや。映画観た後にまだ買うつもり。邪魔になるだろ」
「そうなんですか」
納得するとしばらく会話が途切れた。別に気まずい気にはならなかった。先輩の「気張らない関係」という言葉を思い出した。
「天気はいいですけど、ちょっと寒いですよねえ」
手の甲を摩りながら俺を見上げる。
「そうだな。もう冬も近いのかね」
「私寒いの苦手なんですよ。冬はずっとこたつの中がいいです」
59 :
部屋にいない
:05/03/20 22:22:53 ID:fmrbm1EY0
180 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/12 17:19:57 ID:vY0VXudc0(6)
コートのポケットに手を入れて肩を狭める。それから猫のように俺にすり寄ってきた。
「袋持ってる手、冷えてませんか?」
「まあ寒いっちゃ寒いかも」
「持ちますよ。そういうつもりで来たんですし」
「ん?いいよ、映画館もすぐそこだし」
「じゃあ」
袋を持っている側に回ってエミは俺の手を掴んだ。手を握る、という感じではなく俺の手の甲を覆うように触れてきた。
冷えた手に温もりが伝わってほっとする。
「これで私も持ってると思いません?」
いたずらっぽい、この年齢特有のあどけなさと妖しさの混じった笑顔だった。
60 :
部屋にいない
:05/03/20 22:24:06 ID:fmrbm1EY0
181 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/12 17:22:15 ID:vY0VXudc0(6)
事前に時間を調べていなかったので、劇場に着いたのは上映開始30分前。
まだ前の回が流れているので場内には入れず、待合室の座席にて待つ。
平日の昼間ということで人も少なかった。これなら立ち見はないだろう。
想像通り、前の回が終わっても人が増えることなくいい席を確保することが出来た。
アラジンという映画は要約すると、盗賊(義賊?)の一人であるアラジンが
魔法のランプを手に入れたことで魔人に三つ願いを叶えてもらえるようになる話だ。
並行してアラジンと宮殿の姫君ジャスミンとの恋話もあり、ミュージカルな歌も入り??。
良くも悪くもディズニー映画な感じであった。
まあコメディが四割占めているので暗い劇場内から子供の無邪気な笑い声がしたりする。俺も素直に楽しめた。
61 :
部屋にいない
:05/03/20 22:24:47 ID:fmrbm1EY0
「楽しかった?」
「よかったです」
幕が閉じて明かりが点く。まばらな客がいなくなっていくのが目に入ったが
映画は余韻が大事だと思っているので、俺はエミが立ち上がるまで動く気はなかった。
62 :
部屋にいない
:05/03/20 22:25:27 ID:fmrbm1EY0
182 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/12 17:26:41 ID:vY0VXudc0(6)
「魔法のランプがあれば色々楽できそうだよな。俺としては予算を手伝ってほしい」
「なんか現実的ですね」
へこんだふりをする俺を見てふふと笑う。
「エミちゃんは何かそういう願いある?」
「イアーゴが欲しい、かな?」
イアーゴとは劇中でアラジンの敵方に付いていた口の悪い赤色のオウムだった。
「ええ?だって……。何がいいの、あれ」
騒がしいところはハルナに似ていると言えば似ているが。
「なんだか憎めないじゃないですか。可愛くて」
「そうかあ?」
63 :
部屋にいない
:05/03/20 22:26:10 ID:fmrbm1EY0
:部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/12 17:27:21 ID:vY0VXudc0(6)
「ああいう友達がいたら楽しいですよ。それにほら、鳥なら飛べるでしょう?」
エミが右手を鳥に見立てて天井にかざし、俺も目をやる。
「私がどこに行っても、ずーっと一緒にいられるじゃないですか」
「文句言いながら付いて来そうだけどな」
「それでも一緒にいられるんですもん」
ね?と言われて「まあ」と曖昧な返事をする。そこで鳥は手になり、彼女のひざの上に戻った。
「だから魔法のランプが手に入ったら智也さんを鳥にします」
冗談にしてもエミらしかぬ発言だなと思いながら、自分が鳥籠に入れられて飼われている想像をする。
なんとも滑稽な図である。
「そうなったら優しくしてな」
苦笑いしながら「そろそろ行こうか」と腰を上げた。
64 :
部屋にいない
:05/03/20 22:26:57 ID:fmrbm1EY0
198 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/13 22:56:32 ID:os6k5TFO0(12)
映画館を出たはいいが、さてどうするかと頭を捻る。
時間は30分余裕があるといった程度で、あまりふらふらする時間も無さそうだ。プレゼントって何やりゃいいんだろうか。
四つ年下の女の子がもらって喜ぶ物なんて想像がつかなかった。先輩に聞いておけばよかったと思うが
それでどうなるものでもないかと改めてその難しさに頭を抱えた。
イアーゴが欲しいと言っていたが、まさか鳥を買ってやるわけにも。
「魔法のランプがありゃな」
「まだ言ってる」笑って「そんなに楽しかったですか?」首を傾げて言った。
年齢差のある男女が映画を観た後の会話としては、普通は逆だ。
「どんな悩みでも解決してくれるランプなら誰だって欲しいよ」
「へえ智也さん、悩みがあるんだ」
繊細だからな、と馬鹿なことを言ってみる。
「じゃあ私がランプになりましょう。その悩み、打ち明けなさい」
ふふふと妙な笑いを浮かべながら珍しくエミも冗談に乗ってきた。
質問も冗談と思われてしまう空気だ。俺はこれに乗っかることにした。
65 :
部屋にいない
:05/03/20 22:28:08 ID:fmrbm1EY0
199 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/13 22:57:07 ID:os6k5TFO0(12)
「実はですね、隣の女の子が今欲しがっているものを知りたいのです。あ、鳥は無しな」
外から見ればただの馬鹿だろうと我ながら思うが、人は酔うと馬鹿をしてもあまり気にならなくなる。
俺とエミは映画の余韻に酔っていた。
「わ、わたしですか?」
ランプだろ、と言うと慌てて身なりを正し
「答えましょう、えーと」
しばらく悩んでから威厳のないランプはぽんと手を叩いた。
66 :
部屋にいない
:05/03/20 22:28:43 ID:fmrbm1EY0
「本が欲しいです」
「へえ、漫画とか?」
「いいえ。欲しいのはその、……料理の本、とか」
終わりの方が小さい声で聞き取りにくかった。
「料理?」
はっきりそう言いなおしてやるとエミは一層小さな声になった。
「下手ですから、勉強したくて」
それから恥ずかしそうに顔を背けてしまった。ランプという肩書はもはやそこにない。
67 :
えっちな21禁さん
:05/03/20 22:28:50 ID:2wYeGmO00
長すぎ
荒らしと同じだな
氏ね!
68 :
部屋にいない
:05/03/20 22:29:18 ID:fmrbm1EY0
200 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/13 22:59:37 ID:os6k5TFO0(12)
「本かあ」
そんな様子を尻目に考える。料理の本をプレゼントって、ありなんだろうか?むしろ嫌味にしかならないような。
「とりあえず、本屋に行くか」
時間もそんなに無いことだし、元々無計画でここまで来たのだ。
今更考え込むのもおかしな話だと思い、え?と驚くエミを引っ張って足を進めた。
この時自然と手が伸びていて気付いたのは百貨店の本屋に入る前
握手した右手が汗ばんでからようやく知ったのだった。戸惑って力が抜けると合わせるようにエミの手も緩まる。
「あの辺にあるはずなんだ」
本のコーナーを指差すふりをして握っていた手を離した。
どうも気恥ずかしかったし本屋で手をつないで歩く馬鹿もいないだろう。
示したコーナーに着くと、そこには似たような雑誌がずらーっと並んでいた。
比べるようにその棚を見つめるエミを脇に、俺は何が違うんだろうと一人惚ける。
自分が読む本は専ら小説かエロ本なのでこういうジャンルは新鮮だった。
振り向くと後ろには表紙が鮮やかな女性誌が並んでいる。
69 :
部屋にいない
:05/03/20 22:30:03 ID:fmrbm1EY0
201 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/13 23:00:38 ID:os6k5TFO0(12)
セレブ的というか、出来る女系のオーラがにじみ出ている表紙が俺には物珍しかった。
「智也さん?」
「ん?決まった?」
視線を戻した俺を見てから、俺が見ていた棚に目を向けた。
「いやらしいですね」
薄ら笑いで以て再び俺を見る。
「へ?」
もう一度振り返って棚を眺めてみた。みんな服を着ている。時々俳優が混じってはいるが全裸な人は一冊も無い。
やだなあもうといった友人然りな雰囲気の視線を浴びせてくるが、俺には全く意味不明である。
「やらしいって、え?」
裸もアレもソレも無いよと言いかけて、合点がいった。
「……これがやらしいと。あっはっは、なるほどなるほど」
わざとらしい笑いを上げて馬鹿にするようにぽんぽんと頭の上に手を乗せる。
70 :
部屋にいない
:05/03/20 22:31:11 ID:fmrbm1EY0
202 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/13 23:01:25 ID:os6k5TFO0(12)
「可愛いもんだ」
「え?ちょっ、なんですか?」
うあと頭を伏せるエミ。
「まだまだ子供ってことだ」
「子供じゃないですよう」
その台詞が子供の証だー!とか言ってやりたかったが、それも阿呆らしいのでへいへいと適当に頷く。
「で、どうかした?」
「子供なんかじゃ……」
「はいはい、悪かったよ」
71 :
部屋にいない
:05/03/20 22:32:38 ID:fmrbm1EY0
さっきの子供発言を気にしながら渋々といった感じで二冊の料理雑誌を差し出す。
「どっちがいいと思います?」
片方は小綺麗なおばさんがにっこり笑っていて下に○○先生レシピとか書いてある。
もう一方は、特に語るところのない普通の雑誌だった。
「どっちって言ってもなあ」
料理なんて究極的には口の中で美味けりゃいいんだから。そう思いながら交互に雑誌を見比べる。
72 :
部屋にいない
:05/03/20 22:33:08 ID:fmrbm1EY0
203 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/13 23:02:39 ID:os6k5TFO0(12)
「強いて言うなら、このおばさんが何か胡散臭いんで、こっち」
「あの、せめて中身見ましょうよ」
仕方なく中身を検めることにした。そんなに料理に詳しいわけではなかったが
ぱらぱらペ−ジをめくった感じではおばさんのレシピは注文が細かい気がした。
確かに料理は美味そうだったが難易度も高そうだ。変わってもう一方の地味な方は
表紙同様地味な内容だがエミが作るという話なら。
「やっぱりこっちじゃないか?」
「……本当ですか?」
さっきの選び方がまずかったのか疑いの眼差しを向けてくる。
「本当だって。おぼさんの方はちょっと難しそうだろ。料理は基礎が大事だって聞くし
変に背伸びしないでこういうベーシックなやつの方がいいよ」
「そうですか、それじゃあこっちのを買ってきますんで」
「ああ、ちょっと待って」
レジに向かおうと振り向いたエミの肩に手をやる。
73 :
部屋にいない
:05/03/20 22:33:54 ID:fmrbm1EY0
205 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/13 23:03:47 ID:os6k5TFO0(12)
「何ですか?」
「……俺に買わせてくれないか。エミちゃんへの誕生日プレゼントとして」とか気の効いた台詞でも
言えればよかったんだろうけど、とても無理だった。
「その、俺も欲しい本あるからまとめて買おうよ」
本屋をうろついた結果、買ったのは当時気になっていた「羊たちの沈黙」の翻訳本であった。
料理本とサイコホラーを重ねてレジに出す。羊たちの沈黙といえばレクター博士が有名だが
この博士は人体の一部を料理して食べるので知られている。
そのことは後で知ったがなんていうか、店側からすれば悪い冗談だったに違いない。
とりあえずその場では俺が金を出しておいた。
払います、というエミに家でなと誤魔化して家に帰る。正式な誕生日プレゼントを買えないまま。
74 :
部屋にいない
:05/03/20 22:34:42 ID:fmrbm1EY0
206 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/13 23:05:18 ID:os6k5TFO0(12)
家に帰るとハルナとユキがクラッカーを待機させていた。
エミがリビングに入った途端、乾いた音が二つ鳴る。それに合わせてエミの体が飛び上がった。俺もちょっとびびった。
「え、何?何これ?」
二人の奇行に驚いて、俺に助けを求めるような目で「何ですか?」ともう一度聞く。
こういう日の常套句を言おうとしたが、その前にハルナが口を開いてしまった。
「誕生日おめでとー!」
「私の誕生日?まだ一ヵ月もあるでしょ?」
「一ヵ月?」
今度は俺が驚いた。
「いいのいいの。どうせ今夜がこの家にいられる最後の日なんだから、何でもいいからきっかけが欲しかったの」
からからと笑うハルナに「お前二週間早いだけって言ってなかったか」とストップをかける。
「ほら、智也君も乗り気にならなかったら嫌じゃない」
俺に同意を求められても。
75 :
部屋にいない
:05/03/20 22:36:19 ID:fmrbm1EY0
207 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/13 23:06:41 ID:os6k5TFO0(12)
「それに、やっぱ智也君と一緒に祝いたいってのはあったしね。ほうら、もう一発!」
ぱんと言う音の後に紙テープが俺に襲いかかった。
「うお、この」
負けじと俺も一発打つ。蜘蛛の糸にかかったようなハルナは嬉しそうになって
「やっぱ男の兄妹がいるといいねえ」とか言いながらはしゃいだ。
「ほら、ハルナ。主役を置いてけぼりにしないの。智也さんも」
ごめんなさいと揃って謝る二人。ドアの前で立っていたエミが笑った。
76 :
部屋にいない
:05/03/20 22:37:24 ID:fmrbm1EY0
宴もたけなわ、という言葉が当てはまるかは分からないけど、その日は遅くまで四人で話を続けていた。
くだらない話を、あの宴会独特の雰囲気というか、少しだらけた感じで話し合っていた。
疲れていたらしいユキがソファで休んでいる内にかくんかくんと首が怪しく揺れしだしていた、そんな頃の話だ。
「そういやエミは智也君に何買ってもらったの?」
突然何の脈絡もなく言ったハルナの質問に、俺の心臓が高鳴った。
「え?ああ、そうだ。智也さんにお金渡さないと」
エミが思い出して財布を取り出す。なんていうか、誕生日の主役に一番やらせちゃいけない行動だろう。
77 :
えっちな21禁さん
:05/03/20 22:38:05 ID:YvNF/+4I0
(´-ω-`)ぐ〜
78 :
部屋にいない
:05/03/20 22:38:12 ID:fmrbm1EY0
209 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/13 23:08:01 ID:os6k5TFO0(12)
さすがにハルナも呆気に取られていた。
「いや、その何て言うか。……買えませんでした」
テーブルに手をついて土下座っぽく謝ってみせる。
「え、そうなの?じゃあエミが財布出してるのは何で?」
エミが二冊の本を卓上に出した。料理の本と、羊たちの沈黙。
「さーいてー」
「いやいや、こっちは俺のだ」
焦りながら片方の本を手にした。どっちにしろ最低かもしれんが。
「……本当に買ってないんだ。智也君、そりゃ駄目だよ。甲斐性なしだよ」
甲斐性はともかく他は言い返せなかった。ううと唸る俺を見てハルナは溜め息をついてからエミを眺める。
「エミは?いいの?」
79 :
部屋にいない
:05/03/20 22:38:43 ID:fmrbm1EY0
210 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/13 23:09:15 ID:os6k5TFO0(12)
「別に私はいいよ」
ひらひらと手を泳がせるエミ。我慢してとかでなく、本当によさそうに見えた。
まあ言ってしまえば誕生日一ヵ月前なわけだし。
「今なら何でも言うこと聞いてくれるかもよ?」
「やれることならな」
ハルナの言い方にちょっと不安を感じたので、事にならないよう口を挟んでおく。
しかしその言葉に触発されたのか、何か閃いたような顔になってそれじゃあと口を開いた。
「一緒に寝てもいいですか?」
80 :
部屋にいない
:05/03/20 22:40:06 ID:fmrbm1EY0
249 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 00:27:38 ID:9N5ZbImC0(12)
「……あんたも大胆ね」
ハルナの唖然とした言葉にまばたきをするエミ。
「大胆?」
「女の子がそういうこと言うもんじゃない、って言ってるの」
「そうなんですか?」
くるりと俺に向かって、不思議そうに視線を送る。性の知識はあれど知識だけ、ということなんだろうか。
落ちついた子というイメージが今まであったが、時々無防備というか子供っぽい振る舞いをすることはあった。
もしかすると本当は幼いのかもしれない。
「いや、まあ。どうなんだろう」
そんな考えが頭を回っていたのではっきりと答えが出せなかった。
断るのも悪い気がしたし喜んで承諾することも出来なかった。
「別にいいんじゃないの」
「お姉ちゃん?」
ユキが眠そうな顔でぼんやりとそう言った。
81 :
部屋にいない
:05/03/20 22:42:39 ID:fmrbm1EY0
250 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 00:30:19 ID:9N5ZbImC0(12)
「だ、だって??いいの?」
「もう一緒に寝てるんだから、今更でしょ。それに智也さんは信用できます」
言い分はもっともだと思う。だが理屈と事実は時々噛み合わないもので、心境的にブレーキがかかっていた。
姉の話を聞いて尚驚いているハルナと俺は同じ気持ちだった。
「智也さん次第でしょうけど」
姉の言葉に二人が俺へ視線を向ける。何も言わず、俺の口が開くのを待っていた。
「……別に俺は、いいよ。けどさ、エミちゃんこそいいの?」
「何がです?」
82 :
部屋にいない
:05/03/20 22:45:16 ID:fmrbm1EY0
そう答えるのは分かっていた。分かっていたのだが、何かに抵抗するような心境でそう言ったのだった。
自分でもエミに対して強い衝動を常に持っているわけじゃないから大丈夫だと思う。
しかし、言葉にできないひっかかりが悶々とした形になって心に居すわっていたのだ。
「何が、ってわけじゃないけど」
「もしかして寝癖ですか?」
「ああ、エミは酷いからね」
ハルナが可笑しそうに声を上げる。
83 :
部屋にいない
:05/03/20 22:45:57 ID:fmrbm1EY0
252 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 00:32:49 ID:9N5ZbImC0(12)
「ハルちゃんだって」
「お姉ちゃんもね。私らみんなそう」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。勝手なこと言わないの」
そこから批判合戦が始まった。誰が悪くて、誰にどこを蹴っ飛ばされただの、聞いて呆れるような話だった。
ハルナがエミの抱きつく寝癖を解説してくれたところで俺はため息をついた。
「分かった、分かったよ。別に寝癖なんてどうでもいい。ちょっと恥ずかしかったんだ。
喜々としていいよなんて言ったら、変だろう。その代わり何故そんなことを言ったのか教えてくれないかな」
その答えは単純なもので、エミは当たり前だと言わんばかりの顔だった。
「すごい落ち着いて寝れるんです」
「え、なんで?」
「なんでって、ううん、分かりません。でもほら、昨日も智也さんのベッドでCD聴かせてもらってたら急に眠くなるし」
寝心地がいいんですよと笑顔で話す。それを聞いたハルナは ん?となって
「つまりベッドがいいってことなわけ?」
と聞いた。
84 :
部屋にいない
:05/03/20 22:46:44 ID:fmrbm1EY0
254 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 00:33:48 ID:9N5ZbImC0(12)
「そうかもしれないし、違うかもしれないし……」
はっきりしない態度にハルナはどうでもよさそうに続ける。
「なにそれ。じゃあ別にエミと智也君の寝床を交換するってのでもいいわけね」
それは困る。ハルナとユキに挟まれて寝るなんて、それこそ倫理的にまずい。
「それは、困る」
口を開いたのはエミだった。打って変わって、はっきりとした口調だった。
「夜に一人じゃ寝れないよ」
「……ああ、そうだね、ごめんね」
俺はその時てっきり子供っぽいと笑い飛ばすものかと思っていたが、ハルナは慈しむようにして目を伏せた。
また父親絡みの話なのかもしれなかった。
「じゃあよろしくね、智也君」
「あ、ああ」
いいとも言ったし実質何も悪いことは無い。しかし何かが釈然としないまま、俺は就寝を待つこととなった。
85 :
部屋にいない
:05/03/20 22:48:46 ID:fmrbm1EY0
255 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 00:36:54 ID:9N5ZbImC0(12)
その晩は四人一緒に二階へと移動していった。
それじゃあ、とユキとハルナは俺に妹を託して自分たちの寝室へと入ってしまう。
引き戸の閉まる音がむなしく廊下に響いた。
本当にいいのか、という思いのままエミを部屋に入れてやる。
隣の寝室から持ってきた大きめの枕を抱くようにしてエミは部屋に入った。
ピンク色の薄い生地の寝間着を身につけていたので、後ろからでも子供然りの華奢な体型がよく分かる。
とても女と呼べるものでは無かったが、かといって完全な女児というわけでもなかった。
どちらともいえないアンバランスさが魅力なのかもしれない。
「うう、寒いですね。早く布団に入りましょうか」
寒そうに身を縮ませて肩ごしに俺を見る。その様子に緊張は微塵も感じられない。
意識しているのは自分だけだ。前回と同じようにベッドの奥に先に入ってもらい、後から俺が入る。
エミの向こうは壁だ。一見、追い込まれた小動物に見えないこともない。手を出すのは赤子の手をひねる以上に容易い。
86 :
部屋にいない
:05/03/20 22:49:25 ID:fmrbm1EY0
256 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 00:37:44 ID:9N5ZbImC0(12)
「智也さん智也さん」
暗い考えがうろうろしているところに、ふふと笑って
「二回目ですね、ここで寝るの」
楽しそうに身体をこちらに向けた。その様子に俺は毒気が抜かれる。
「……寝心地がいいって言ってたけど、やっぱこのベッド寝やすいの?」
「そうですね、何ていうか、いい匂いがするんですよ」
匂い?という俺の質問に手をぱたぱた振って続ける。
「あ、いや。いい匂いってわけでもないんですけど??。ああ、臭いとかでもないですよ?
お父さんみたいな匂いがして、いえ全然違うんでけど、なんて言うか」
色々と言葉を探してから観念したように「違うけど、似てるんです」と抽象的なもので落ち着いた。
「お父さんって、エミちゃんの本当のお父さんの方?」
「はい」
「……そのお父さん、歳はどのくらい?」
高二の俺にしてみればかなり気になる情報だった。年齢によっては、ちょっと体臭に気を付けねばなるまい。
87 :
部屋にいない
:05/03/20 22:50:59 ID:fmrbm1EY0
257 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 00:39:16 ID:9N5ZbImC0(12)
「私が小学三年生だった頃で30歳でした」
「そりゃ若いね」
少しほっとする。
「ってことは今34歳なのかな」
「いえ、もう死んじゃってて」
別れた父親の「今」なんて話題にするのも軽率だったが
父親の今を知らずにそんな話題を振るのはそれ以上に軽率だった。
「そうなんだ、ごめん」
「いいえ、三年生の時のことなんてそんなに覚えてないですから。
あんまり実感ないんですよ。いなくて当たり前、みたいな」
裏のない笑顔で答える。気の毒だなんて考えちゃいけないんだろうけど。
「だから感覚的に似てるなあって思ったんです。ここの匂いを嗅ぐと、何か溜まる感じがして気持ちいいんですよ」
胸の辺りを撫で回しながらそう言うエミがいたたまれなくなって、つい「ごめんな」と言ってしまった。
88 :
部屋にいない
:05/03/20 22:52:30 ID:fmrbm1EY0
258 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 00:40:54 ID:9N5ZbImC0(12)
「いいですって」
「ああ、うん、そのう……。プレゼントをちゃんと買ってやれなくてって」
俺の誤魔化しにああと頷く。
「だからこうやって一緒に寝させてもらってるんですよ?」
「ん、まあそうだけどさ」
「それなら、もう一つだけいいですか?」
何が?と聞きそうになってから気付く。もう一つお願いしてもいいか、という意味だ。
「いいよ」
「夢を諦めたって話、聞きたいんです」
89 :
部屋にいない
:05/03/20 22:53:23 ID:fmrbm1EY0
「……それか。面白い話じゃないって」
「でも聞きたいんです。夢があるから学校に行ったり勉強したりするんじゃないんですか?」
「そうじゃない人もいるんだよ。なんだろね、こう、だらだらと回りに流されて生きていくわけさ」
今はどうなのかは知らないが、当時は夢を持っている人間の方が多かった。
同級生の大概は夢を持っていたろう。そんな中ではぐれ者とも言うべき自分に、半ば自嘲気味にふざけて答える。
そんな俺にエミは「私は」と小さいながら、はっきりと口を開いた。
90 :
部屋にいない
:05/03/20 22:54:12 ID:fmrbm1EY0
259 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 00:42:54 ID:9N5ZbImC0(12)
「私は、色々やりたいことはあるけど、今は早く料理を上手に出来るようになりたい。
それで、智也さんにホットケーキを食べてもらいたいんです」
「……」
「だから、お願いですからそんなこと言わないでほしいんです」
真っ直ぐな目で言う言葉に、自分がひどく情けないやつに思えてしまった。
面と向かってそう言ってくれる子に対して、自分は話すのが嫌だと駄々をこねている気がしたのだ。
「そっか、それは……ありがたいよ。ほんと、ありがとな」
ややあってから、よしと自分を奮起する。
「話すよ。そうだな??どこから話したもんか」
91 :
部屋にいない
:05/03/20 22:55:01 ID:fmrbm1EY0
俺は要点だけ、しかし逃げの無い話をベッドの中で隣にいるエミに聞かせた。
元々人から文章が上手いと言われはするものの自分では全く自信がないこと。
しかしそれなのに、生徒会にて発刊している学校新聞では喜々として文章を書かせてもらっていること。
「好評なんですか?」
「まあそこそこ。書くのも読まれるのも嫌いじゃあ無いんだ。でも自信は無い。
そもそも本当に上手いかどうかなんて分からないし。本当は下手だけど読んだ人が言わないだけかもしれない」
92 :
部屋にいない
:05/03/20 22:56:02 ID:fmrbm1EY0
260 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 00:44:05 ID:9N5ZbImC0(12)
「そんな」
「まあそんなこと言いだしたらきりないし、実際自分も人よりは書けるんだと思ってる。分かってるんだけどね」
しかしある日自分はふと気付いた。仮に校内で好評だったとしても、それまでなのだと。
海原を知らない蛙なのだ。外に出たらちょっと人より上手い人、でしかない。
「そう思い至ったら突然力が抜けちゃってね」
情けないったらありゃしない。
「なにか力を試せる場所とか無かったんですか?」
「新聞社の開催する小論文コンテストとかあることはあるけど
自分の才能をはっきりさせられるのが怖かったんだろうな。
井の中の蛙なら井の中で収まってもいいや、って思ったのかもしれない」
93 :
部屋にいない
:05/03/20 22:57:01 ID:fmrbm1EY0
270 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 19:03:45 ID:iajRKZyr0(30)
「そんな簡単に……、諦められるものなんでしょうか」
「きっかけ自体が大したことないんだよ。小学生の時に書いた作文が
先生にえらく気に入られちゃってさ、教室で読み上げたんだ。その時好きな女の子にすごいねって言われて」
何年も一人で舞い上がってただけなのだ。
そこまで喋りきると何だかどっと疲れが沸いてきた。少し切ない気分になってきたので
おいで、とエミの身体を寄せる。乾いた髪からうちのシャンプーの匂いがした。
そっと撫でると恥ずかしそうに頭を傾けた。
「智也さんだってまだ頑張れますよ。だから作家を目指して頑張ってください」
「それじゃあ、そうだな。エミもいつか、俺に料理を食べさせてくれよ」
94 :
部屋にいない
:05/03/20 22:58:07 ID:fmrbm1EY0
「……約束」
薄暗い部屋だったが目と鼻の先にいるエミが小指を差し出したのを確認できた。
指切りなんて久しかったが、これで本当にもう一度会えるならと淡い希望がよぎる。
幼稚な儀式でも可能性が開けるのならと応じることにした。
終えるとエミは寝返りをうって俺に背を向ける恰好になった。
95 :
部屋にいない
:05/03/20 22:59:20 ID:fmrbm1EY0
271 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 19:05:03 ID:iajRKZyr0(30)
「抱きついてみてもらえますか?昔、お父さんにそういう風にやってもらってた気がするんです」
一瞬戸惑ったが、自由の効かない布団の中で小さな背中が闇の中で映えるとブレーキがかかることはなかった。
黙ってエミの背中から腰に手を回し、情欲と愛情がごちゃ混ぜになった混沌とした頭に従うように、ぎゅっと強く抱きしめた。
「……痛くない?」
「ちょっと痛い、けど、これくらいの方が私は嬉しいです」
お互いに、かどうかは分からないが、その時は確かに俺は欲情してしまっていた。
早まる俺の鼓動に合わせて腕の中の小さな身体も吐息が荒くなるのを感じる。
口元のすぐ先にある可愛らしい耳に舌を伸ばしたくて仕方がなかった。
「エミちゃん、好きな人にどんなことをするか、って聞いたよね」
早まる呼吸と沸騰する思考に、もはや理性は逸脱しかけていた。
「ちょっとだけ、試してみる?」
「……はい」
96 :
部屋にいない
:05/03/20 22:59:56 ID:fmrbm1EY0
272 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 19:07:00 ID:iajRKZyr0(30)
こっち向いて、ともう一度エミに寝返りをうってもらい、肩を掴んで引き寄せた。
正面から抱き合う形になる。エミもおずおずと俺の身体に手を回し、お互いの足を重ねてぴったりと密着した。
顔と顔が近い。心臓の音が直接耳に響いてきて、身体が熱くなる。
密着して蒸れてきた全身が動きだした感情へ加速をかけた。
汗ではりついた髪の毛を拭うようにエミの額に手を当て、熱っぽくなっている顔にたまらなくなってキスをしてしまった。
少しでも反抗の素振りを見せたなら止めようと思った。しかし彼女は黙ったままで俺には肯定の意に見えてた。
キスをしたことでタガはほとんど外れてしまい、俺はエミの上に被さるようにして、服の上から腋の下に手を添えた。
そして親指で弧を描くように発育していないエミの胸をゆっくりと、しかし徐々に力を入れて撫で回した。
97 :
部屋にいない
:05/03/20 23:00:38 ID:fmrbm1EY0
273 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 19:08:50 ID:iajRKZyr0(30)
「んふっ」
抑えるような小さな喘ぎに俺はどんどん加速していく。再び唇を奪って、片手を服の下に入れてお腹を撫で回す。
ふにふにとした柔らかな絹肌と、服の上からでもわかる胸の一部の突起。
いよいよ興奮は最高潮に達し、腹部から下へ手を滑らせていく。
しかしエミのパンツに指が触れるか触れないかというところで、俺は異変に気付いた。
「う……ううっ」
エミは顔を隠しながら、まさに初めて会った時にそうしたように、静かに泣いていたのだった。
身体中の血がさーっと引いていく。よく考えなくても隣の部屋ではユキとハルナがいるのだし
98 :
部屋にいない
:05/03/20 23:01:41 ID:fmrbm1EY0
??いや、それ以上にエミを泣かしたことへの罪悪感に尽きる。
最後の最後で、俺は大失敗を犯してしまったと愕然とした。
エミは新しい父親にいたずらをされたと言っていたから、その時の記憶が蘇ったのかもしれなかった。
「俺……」
被さるようなポジションを捨て彼女の隣に寝る。自分に対するいろんな罵倒が浮かぶ。
「ひぐっ、ごめん、なさい。泣いちゃって」
嗚咽を含んだ言葉に俺は動くことができずにいた。
99 :
部屋にいない
:05/03/20 23:02:43 ID:fmrbm1EY0
274 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 19:10:47 ID:iajRKZyr0(30)
「ごめんな」
「違うんです、そういうんじゃ??」
我慢していたものが限界に到達したのか、エミは一気に泣きはじめた。ベッドの中で俺の胸に顔を当てて。
だから声自体はほとんど漏れなかったけど、俺の心を響かせるのには十分だった。
エミは落ち着いてくると顔を上げてもう一度俺に謝った。
「ごめんなさい」
「いや、俺が軽率だった。悪いのは俺だよ、本当にごめんな」
「違うんです。智也さん自体は別に……」
嫌じゃなかった、と恥ずかしそうな消え入りそうな声だった。
「懐かしい匂いがしてる中で、その、ああいうことになってたら
本当のお父さんと前のお父さんを思い出しちゃって。混乱してたけど目に映ってるのは智也さんで
しかも明日にはお別れなんだって思ったらもう、訳が分からなくなっちゃったんです」
確かにお互いずいぶんと興奮していたから、そんなに色々なことが頭に出てきたらごちゃごちゃになるかもしれないと思った。
100 :
部屋にいない
:05/03/20 23:04:18 ID:fmrbm1EY0
275 :部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q :sage :05/03/17 19:12:41 ID:iajRKZyr0(30)
「でもやっぱり、しちゃいけないことしたんだし」
ごめん、と謝る俺にいいんですよと笑って答えるエミ。
「でもちょっと喉乾いちゃったかな」
「それじゃあ、下に行って水でも持ってくるよ」
「私も一緒にいきます」
起き上がると身体から出た汗で寝間着の数カ所に染みが出来てしまっていた。
身体が冷えてしまわないよう、エミに上着を着せてやって一階の水道で水を汲む。
コップ一杯に注いで、はいと手渡してやった。なんとなく俺は気まずくて、誤魔化すように一気に飲み干した。
「最近、不安で仕方なかったんです」
コップの水を半分にしたところで、そう呟く。
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